<SXSW2019>SXSW予報(6)Real-Trend vs Marketing Hype 〜本質を捉えているか?〜
SXSWのセッションを楽しむコツは、自分の専門領域”外”を横断的に見てみる事です。トラック(カテゴリー)をまたいで、共通するテーマを自分なりに見つけてみると、未来の兆しが見えてきます。SXSW2019特集記事の後半は、未来予報のインターン齋藤雄太さんの視点から書いた全6記事をお送りします。
はじめに
これまでの連載で、SXSW2019を象徴するキーワードを私なりに考え、書かせていただきましたが、最後の総括として「Real-Trend vs Marketing Hype」というキーワードを取り上げさせていただきたいと思います。これは、「何が本質的な変化で、何が一時的な流行でしかないか」を見分けるための視点と言えると思うのですが、近年人工知能/ブロックチェーン/ビッグデータ/IoTなど、新しい技術のトレンドが次々と登場していますが、これらの用語は実は具体的には何を指す言葉かが定義されていないため、人によって解釈が大きく違う場合も少なくなく、イメージだけが先行し、過大評価や拡大解釈をされてしまう危険性を認識しておかなければいけないなと感じております。
例えば、AI・人工知能という言葉は目にしない日はないというほど流行し、報道されるようになりましたが、AIの中核をなす技術であるディープラーニングは、「人間のニューロンの結合と似たニューラルネットワークから構成されています」という説明だけを受けると、「何か良く分からないけど、人間のように学習するんだな」と思われがちですが、実際には人間の知能の次元とはまるで違います。もちろん限定された世界では大きな結果をもたらす可能性を持っているものの、”人間のように”思考するためには脳神経科学研究における大きな進歩が期待されている状況です。
2018年に出版された『知ってるつもり 無知の科学』という著書では、「説明深度の錯覚」と呼ばれる概念が提唱され、人は誰でも、自分の無知に気づかず、自分の知識が実際より多いと錯覚していることを論じています。複雑すぎる世界の中で効率的に行動するために「人は世界情報を捨象する傾向がある」結果おこる現象が説明深度の錯覚であると説明されているのですが、これは人間が生物進化の歴史の中で必然的に起きた現象であると記述されています。これは、多数の脳が思考を通じて協業することで、人間は他の種に対して圧倒的な優位を築いてきた生存手段であったため仕方がないものの、「慎重な思考」で確認してゆく地道な確認作業が必要であると著者らは説いています。
この本は私にとって自分に対する新しい発見をもたらし、深く考えさせられる印象深い書籍だったのですが、これは私たちが、進歩するテクノロジーや人工知能とともにいかに生きるか、科学に対する誤解や思い込みからいかに抜け出すか、そして意図的な世論操作に惑わされずに正しい判断をするためにはどのような社会システムを設計すべきかといった、まさにSXSWで行われる議論について考察する際にも役立つものとして想起されました。
SXSW2019のセッションのご紹介
この視点から昨今のトレンドを考えるセッションとしては、Blockchain&Cryptocurrency部門の「Featured Session: Neha Narula, Jimmy Song, Christopher Ferris with Cesare Fracassi」があります。ブロックチェーン・仮想通貨業界は現在二つの異なる立場に分かれてると言われています。一つ目は、ブロックチェーンを基盤としてソリューションを企業に提供するプライベート(Permissioned)型。そして二つ目は、不特定多数に非中央集権で完全分散型のアプリケーションを届けることを目的としたパブリック(Permisionless)型の流派です。どちらの流派も世界を変えるブレークスルーとして認められたと同時に、一時的な流行にしか過ぎないとの批判も受けています。このセッションでは、ブロックチェーンの本質とは何か、リアルなブロックチェーン事情を語ります。
さらに、Cannabusiness部門の「Non-Obvious Trends in the Cannabis Industry」というセッションでは、”マイクロドージング”(ヒトの機能を向上するために、作用閾値以下の用量で幻覚剤を使用すること)などのバズワードをほうり投げるのは簡単だが、本当の意味で消費者を引きつけ、購買行動を変化させ、継続的な力を持つようなマリファナのトレンドとは何かについて議論をします。このセッションでは、今存在する事業の利益を確保しながら、いかにして市場の方向性を先回りして読み取り、マリファナ関連業界におけるわかりにくいトレンドの本質を掴むことができるかについて議論をしますが、そのような思考法は他の業界の人にとっても参考になる視点かもしれません。
最後に
私自身、未来を切り拓くようなイノベーターたちの話を聞くのはエキサイティングでインスピレーションを得られるため、常にウォッチをしておきたいと思っている人間ですが、こうしたテクノロジーの業界では、違った流派があったり、ユートピア的世界観を持つ人やディストピア的議論を語る人に分かれていたりと、程度の差はあれど、人によって全然違うスタンスを持っているものだなというのを改めて感じました。こうした議論をきちんと批判的思考を持って、ただ全てを鵜呑みにするのではなく、「自分はこのように考える」といったスタンスを築いていくためには、こうしたイノベーターが語る未来像に感覚の部分で共鳴するだけではなく、実際に自分自身も技術的な部分も含めて学んでいき、どこまでは現実的に可能な領域なのか、どこまでが過大評価をされていて解釈を改める必要があるかというのを学んでいく必要性を感じました。
以前、SHOWROOMを運営する起業家の前田祐二さんの講演に参加し話を聞いていた時に、「これだけ色んなことがコモディティ化していく中で唯一コモディティ化しないのは”人”だ。」と仰っていたことが自分の中で心に残っていたのですが、確かに、「AI技術によって人の職は奪われていき人はより”クリエイティブ”でより”人間らしい”ことをしていくようになる」とか小難しい話はよく聞きますが、前田さんの言葉はとてもシンプルで本質を掴んでいるように感じました。人間というのはネガティブな事への反応が本能的に強いように生存のため進化してきたため、ついついネガティブなことを考えてしまいがちですが、幸せな状態というのはネガティブな感情もポジティブな感情も全てを含んだ感情や状態であるように、苦しみや苦労と喜びや満足感というのはセットであり、全てをテクノロジーによって便利にして楽をしようとしても必ずしもハッピーになるとは限らないとも思います。しかし、もしそれがする必要のないストレスだったり、面倒なことであれば、それらはAIなどの新しい技術に積極的に任せてゆき、私たちはは私たち自身がやりたいことや自分が熱くなれるような対象に時間を費やすことができるような世界観が広がれば良いなと感じます。自分が好きなことを選んだとしてもそれを継続してやり続けるには大変なことも多々あり、しかしそれらの障壁を大きければ大きいほど、それらを乗り越えた後の喜びは大きくなるのかもしれません。だからこそ、どうせ苦労をして大変な思いをしなければいけないのであれば、それがもっと個性的で、人それぞれのストーリーや思いに溢れている方が豊かな社会であるように感じます。そうした世界観の実現が可能になってきたのが今という時代の転換期であり、それらを可能にし得る技術の登場のように感じます。
そうした社会の実現を推進するために既に行動を起こしている人々を尊敬しますし、自分も彼らと同じように未来を創造する一員でありたいと思います。今回、このようにSXSX2019で開かれる数多くのセッションについてリサーチをし、多くのイノベーターたちがどのような世界観や未来像を持って行動を起こしているのかを学ばせていただく機会をいただいたことを未来予報の皆様に感謝すると共に、もし私のブログ連載を面白いと思って下さった方がいらっしゃればそれほど光栄なことはありません。またどこかでお会いできることを心より楽しみにしております。
未来予報株式会社
未来像<HOPE>をつくる専門会社。大手メーカーやスタートアップとともに、リサーチに基づく未来のストーリーやビジュアルを作り出している。日本唯一のSXSW公式コンサルタント。
『10年後の働き方』(インプレス社)を発売。培養肉マイスター、バイオ衣装デザイナー、3Dプリント建築家など、世界で実際に進められているプロジェクトから、50の未来の職業を提示した。Amazon情報・コンピュータ産業カテゴリーでベストセラーを獲得。その活動がBRUTUSやAXIS、WIREDなどメディアに取り上げられている。虎ノ門ヒルズ・六本木ヒルズ、日本財団ソーシャルイノベーションフォーラムなど講演活動多数。
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