SXSWのセッションを楽しむコツは、自分の専門領域”外”を横断的に見てみる事です。トラック(カテゴリー)をまたいで、共通するテーマを自分なりに見つけてみると、未来の兆しが見えてきます。SXSW2019特集記事の後半は、未来予報のインターン齋藤雄太さんの視点から書いた全6記事をお送りします。


はじめに

今回は「Inclusive」(日本語に直訳すると”包括的な”という意味)というキーワードを取り上げさせていただきますが、これは、社会全体としていかに”多様性”を包括していくかという表現に言い換えられると思います。しかし、昨今になって多様性という言葉をあちこちで聞くようになったものの、そもそも多様性というのは何を意味するのか、また、なぜ今になって多様性という言葉が至る所で語られるようになったのかについて問われたことはあまりないように思われます。そのため、今回の記事では”多様性”という言葉の意味をより深く捉えて、それが現代において持つ根本的な意味について考えてみたいと思います。

そもそも多様性とは何を示すのか

この多様性に関する議論として、ソーシャル経済メディアであるNewsPicksの特集で、研究者/メディアアーティストとして有名な落合陽一さんとジーンクエスト代表取締役としてゲノム遺伝子関連のビジネスをされている高橋祥子さんが「日本ダイバシティー論」についての議論の中で面白い知見を語っており、”多様性”というものを多角的に考えるための示唆を与えてくれると思うため、以下に簡潔に紹介させていただきます。

そもそも、生物学的に見たときの”多様性”というものについて考察するためには、38億年前に生命が誕生し、まだ単細胞だった頃まで遡ります。そして、約10億年程前になると、ようやく多細胞生物が出現し、細胞における多様性が進んでいきました。これにより生物は、同じ遺伝情報を持ちながらも、違う性質・働きを持つ多くの細胞によって一つの個体を成り立たせるようになりました。高橋さんによると、この現象は二つの示唆を我々に与えてくれると言います。

一つ目は、生物の進化において、多様性を増やすということは生存の可能性を高めるための”手段”であり、それ自体が目的ではなかったということです。実際、絶滅危惧種の多くは、遺伝的多様性が低いという研究も出ており、多様性は外界の環境の変化に対しての適応性を高め、種としての生存確率を高めるための手段として機能をしているそうです。そして、二つ目のポイントに繋がりますが、生命が多様性を増やしてきた背景には、「個体が生き延びて、種としても繁栄していく」という共通の意志や目的があり、また、それぞれの細胞が同じ遺伝情報を持つという”同質性”があったからこそ”多様性”が成り立っていたように、我々が多様性を考える上でも、どこに目的意識、問題意識、あるいはビジョンを持って議論を進めていくかということが大事になると考えられます。これは、「多様性」という言葉が一人歩きしてしまっているような現在において、それぞれの立場の人々が皆、全く違う問題意識、目的意識を持って議論を進めてしまっては、バラバラでまとまることがなく、同じ方向性を向くことが難しくなり対立構造を生んでしまう危険性もあります。

さらにわかりやすくイメージするために、高橋さんは「虹の7色」を例として取り上げているのですが、7色のうち、同じ色同士を混ぜていても多様な色は生まれませんが、逆に全ての色を全部混ぜてしまっても濃い灰色のような一つの色となって多様性はなくなってしまいます。そのため、ちょっと遠いけれどある程度近い色を混ぜることで初めて多様性が生まれます。これは、多様性を求める上で、どこに同質性や均質性を定義するかが大事であることを示唆するもう一つの例と言えます。これを企業に例えますと、同じビジョンを共有していなければいくら多様性を増やしたところでまとまらなくなってしまうように、目的意識や共通のビジョン・意志の重要さを示しています。

このように、一歩引いて高い視点から多様性を捉えて観察するために上記の引用をさせていただきましたが、このような視点は私たちが多様性に関する議論を進める時に、ついついそれ自体を目的にしてしまい、そもそも何を目的として多様性を高めようと思っていたのか、我々がどのような”主観”で議論を進めているのかを一度メタ認知して、思い込みを外して論理的に捉え直すためのきっかけとなるように感じます。例えば、「女性起業家」といった呼び方は、その括り方自体がもしかしたら”男性中心”の主観を象徴しているかもしれませんし、「とりあえず管理職に女性を入れればいいんでしょ」といった本末転倒な事例は減るかと思います。また、男女といった括りに限らず、LGBTの方々に関する話題も多く聞くようになりましたが、歴史的な偉人の多くはLGBTだったという研究もあり、才能豊かな可能性の高いLGBT層ですが、そういった”才能”や”個性”といった目には見えにくい部分での多様性など、より本質的な意味での多様性というのを私自身も考えていきたいと思っております。

SXSW2019における議題

少し話が拡大してしまいましたが、ここからは、SXSW2019ではどのような論点でこの「多様性」を社会として包括していくためのセッション・議論が行われるかを見ていきたいと思います。

まず、Entrepreneurship & Startups部門の「Return on Inclusion: Generations of Women at Work」では、最近マッキンゼーの調査によって「管理職位に女性がいる企業の方が平均して56%も利益率が高い」といったことが発表されたように、企業におけるジェンダーの多様性のバリューや女性のエンパワーメントの重要性が謳われている中、30代・40代・60代といった各世代のパネリストが集まり、各世代がどのようにこの変革へ貢献できるかについて議論します。確かに、世代によってジェンダーロールへの価値観は異なり、それぞれが違ったアプローチを求められているのかもしれません。
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また、Music Industry&Culture部門の「#youtoo? Creating a More Inclusive Music Industry」というセッションでは、#Me Too運動を始めとしたソーシャルメディアキャンペーンや、ジェンダーバランス・アンチハラスメントへ向けた昨今の人々の結束や関心の高まりを背景に、より包括力のある音楽業界を築くため、誰がどのような責任を持ち、どういった所から変えていく必要があるのか、誰がそのイニシアティブを取るべきか、国内だけでなくよりインターナショナルなレベルでのコラボレーションが必要なのか、個人がよりバランスの取れた業界を築くためにどのような貢献ができるのかといった議題について、著名なアーティストや業界の重役たちが議論をします。
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さらに、ジェンダーバランス・多様性に関する議論は男女という括りだけでなく、LGBT層の方々をどのように社会として包括していくかについての議論にも及びます。Future Workplace部門の「Making Your Business More LGBT+ Inclusive」というセッションでは、現在アメリカにおいて1200万人以上の成人が自らをLGBTとして名乗りを上げる中、どうすれば広告がLGBTコミュニティに効果的にリーチすることができるのか、そして、オフィス空間のレイアウト、または今いる顧客や社員を遠ざけることなくLGBT層を包括する方法についての議論をします。
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また、少し方向性が変わりまして、デジタルの世界における社会の分断についても議論されます。Cities, Government & Politics部門の「Strategies to Achieve Smart and Accessible Cities」というセッションでは、北の先進国と南の発展途上国の間の情報格差について触れます。さらに、この情報格差は障害を抱える方々や年配の方々も置き去りにしているとして、今後スマートシティと呼ばれるIoT(モノのインターネット)の先端技術を生活インフラの管理に浸透させ、生活の質の向上や都市の運用・サービスの効率向上を目指す都市開発を進めていく上で、どうすれば全ての人々を均等に包括していくことができるかについて、政府や産業界・市民社会からのグローバルリーダーたちが集まり、デジタルインクルージョンのための障壁や政策・戦略について議論をします。
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なぜ今多様性なのか

最近になって「多様性」という言葉が特に大きく取り上げられるようになりましたが、その背景には、インターネットなどの情報技術の発展とそれに共なるグローバル化が大きく関わっているように思われます。これらの情報技術は、言葉も国境も人種も異なる人々が繋がることを可能にし、個人や今までマイノリティとして扱われてきた人々が結束して声を上げることができるようになりました。しかし一方で、社会の分断や孤立も生み出してきたように思います。例えば、”情報弱者”と呼ばれる高齢者の方々は、スマートフォンやタブレット端末を上手く使いこなすことができないため、社会的孤立や孤独感を抱えるといった問題へと繋がっています。また、情報格差は国内の都市部と地方部の間でも起こっています。こうした情報格差は、インターネットを活用したビジネスが主流となっている現在において、貧富の差を生み出しており、今後もAIの発展により、個人データをより多く所有する企業や国の差が加速すると予測され、多くの注意が払われなければいけない課題となっています。さらに、2018年に話題となりましたが、フェイスブック・ユーザーの個人情報が不正に第三者に渡っていたことが発覚し、2016年の米大統領選においてトランプ陣営に使われていたとの指摘を受けるなど、情報を持つ企業や集団による管理の不備や第三者による悪用の危険性もあります。

その一方で、これらの技術を上手に使いこなすことができれば新たな自己表現の形や、コミュニティの創造に繋げることも可能になっています。例えば、ご存知の方も多いように、SHOWROOMと呼ばれるストリーミングサービスでは、アーティストやアイドル、タレント等の配信が無料で視聴でき、さらに誰でもすぐに生配信が可能な、双方向コミュニケーションの仮想ライブ空間が実現され、オンライン上での新たな自己表現やコミュニティの形が誕生しています。さらに、最近ではYouTuberも増え、今後はVRを利用したVTuberも増えていくことが予想されるように、デジタル技術といった”道具”を使って、いかにリアルなコミュニケーションやコミュニティの場を作っていくかが重要なポイントだと思います。もし子供が、スマホゲームなどのバーチャルな世界に没頭しすぎて、対人でのコミュニケーションが取れなくなってしまうようであれば問題かもしれませんが、バーチャルなやり取りを通じて、実際に顔と顔を合わせたコミュニケーションや、自己表現の場が増えたり、実世界でのコミュニティに参加するきっかけが出てくるのであれば、多いに活用すべきだと思います。

多様性について語られる時によく上げられるキーワードとして「共感力」といったものがありますが、僕は共感力ではなく他人への尊敬・尊重、もしくは自分と他人の違いへのリスペクトが大事ではないかと思います。共感と言われると、他人と同じ意見に合わせなければいけないといった同調圧力が働いてしまう可能性もありますし、他人と分かり合えないことへの苛立ちや対立関係を生んでしまうこともあります。しかし、自分と他人は違うものだということを最初から認識し、自分と他人の意見の違いを受け入れ尊重することによって、その上での合意や同盟を結ぶための落ち着いた議論ができるように思います。アメリカなどでは小さい頃から自分の意見を主張したり、他者とのディスカッションをする場が教育の中でも重視されているため、他人の意見を尊重しながら議論を進めていくことが上手な傾向があるかもしれませんが、日本でも女性の社会進出や外国人労働者の受け入れが議論されている中、アメリカではどのように議論が進められていて、様々なバックグラウンドを持つ人々を社会全体として包括をしていくための共通のビジョンや意志を持つために、SXSWのような場でどのような議論をしているのかを参考にしてみるのは、もしかしたら大きなヒントを得ることのできる機会になるのかもしれません。また、多様性というと大きな組織や社会、グローバルな規模の話など、自分とは遠いことの話に感じてしまいます。しかし、自分の身の回りの人々やコミュニティとの繋がりを考えて、今まであまり話したことのなかった人と話してみたり、新たな人との出会いを求めて今まで行ったことのなかったイベントやコミュニティに参加してみたり、自分が苦手、嫌いだなと思っていた人との共通点や相手の境遇を想像してみたら「意外と自分と同じような部分もあるんだな」と関係を良くするきっかけができたり、自分の人間関係という大きな総称の中の「多様性」を増やすことができ、新たな自分の一面を発見することのできるきっかけとなってくれるかもしれません。一緒に多様性といったものについて考えていきたいですね。

参照:
「多様性をアップデートせよ – NewsPicks」
「歴史的な偉人の多くはLGBTだった。あなたに知ってほしい。」