人体の未来:"Open 3D Body" SXSW2016 Session 実録長編レポート

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SXSW2016で未来予報がオーガナイズさせていただいたセッション「Open Source & 3D Printer : Redefining Human Body」の実録長編レポート(日本語)をお送りします!セッションの音声はこちらから聞く事ができます。(英語)

<セッション概要>

1960年代に発売された義手はこれまでほとんど進化することがありませんでした。それは義手を必要とする人たちが、車椅子などの他の福祉機器に比べ少数であったことと、個体差が大きくカスタマイズが難しいことが、価格を下げられず限られたデザインしかないことの原因でした。exiiiはこの課題に着目し、3Dプリンターで義手を作成することで価格を下げ、”本物に似せた手”という一択しかなかった義手のデザインに”自由”を与えることに挑みました。さらに、2015年4月に家庭用3Dプリンターでつくることができる義手HACKberryをオープンソース化したことにより、今まで難しかったカスタマイズとローカライズが簡単にできる環境を、世界に提供しました。現在、オープンソースのコミュニティが形成され、世界のあらゆる場所でHACKberryを原型とする義手がつくられるようになりました。これは日本のexiiiに限ったことではなく、偶然にもOpen bionicsやe-nableなど、申し合わせたかのように、世界で同じ動きが始まっています。義手だけではなく、これまで不可侵領域だったHuman BodyをRoboticsが代替、さらには超えていくという現象が今後進んでいくと考えることができるでしょう。このセッションでは、上記の流れを受け、デジタルファブリケーションが<医療業界>の構造をも変える可能性を秘めていること、オープンソースコミュニティにおける今後ビジネスの在り方を議論していきたい。

<モデレーター>
・Shigeru Kobayashi (Professor Institute Of Advanced Media Arts & Sciences)

<スピーカー>
・Ivan Owen (MAKERSPACE LAB MGR of University Of Washington Bothell)
・Genta Kondo (CEO exiii inc)

目次

<セッションレポート>

●問題提起(モデレーター:小林茂氏)
Little bitsとMaker Botにみる、オープンソースハードウェアの課題の可能性

●自己紹介
ーイヴァン・オーウェン氏 ー近藤玄大氏

●質問
・01:子ども向けの義手について
・02:オープンソースの活用について
・03:義手の質感について

●議論

・オープンソースの電動義手HACKberryの可能性と課題
・「ビジネス」、「品質」、「法規制」、「技術へのアクセシビリティ」の4つの課題
・「技術へのアクセシビリティ」について
・「品質と法規制」について
・「ビジネス」について

●最後に一言

<セッションを終えて>

・#Open3d Meet-Up

・#オーガナイズ後記


セッションレポート

問題提起(モデレーター小林茂氏より)

Little bitsとMaker Botにみる、オープンソースハードウェアの課題の可能性

Session Moderator

まず、オープンソースを活用したハードウェアのスタートアップを2社ご紹介します。

1社目は2011年に設立されたlittleBitsです。主力商品は社名でもあるlittleBitsという名のツールキットです。
センサー、アクチュエーター、Wi-Fiなど様々なモジュールが含まれています。
ユーザーは電子回路をつなぎ、発想次第でおもちゃ、楽器、IoTデバイスなどを製作できます。
littleBitsがユニークなのは、部品同士を磁石で簡単につなげられる点です。手軽に始めることができ、複雑なデバイスを製作することも可能なので人気を博しており、会社規模は拡大しています。
当初からlittlBitsは、磁石の接続部品を除く全てのハードウェアデザインのデータをオープンソースで公開しています。磁石部品については特許を申請しており、特定の製造業者にしか製造を許可していません。

このように、littleBitsはオープンソースとクローズドソースを上手く使い分けて、事業を持続し拡大しています
2つ目はMakerBotです。同社は2009年に設立されました。
当初はRepRapなどのオープンソースプロジェクトを活用し、全てをオープンソースしていました。
そして個人用3Dプリンターの市場の急成長とともに拡大し、オープンソースハードウェアの英雄と考えられていました。
2012年にはReplicator 2という高度な製品の販売を始めました。会社を拡大するため、この新製品については一部をクローズドソースにすると発表すると、コミュニティでは混乱が起こったのです。

実際には、ユーザーインターフェースのソースコードや、外側のデザインデータといった製造に特別な道具が必要な部分についてクローズドにしただけでした。
しかしコミュニティ内では、特にオープンソース原理主義者からの批判を受けました。
これまで見てきたように、ハードウェア・スタートアップにとってオープンソースは効果的な戦略ですが、まだ初期段階で多くの可能性や課題を秘めています。

自己紹介(イヴァン・オーウェン氏)

世界で初めてつくられた3Dプリンターによる義手

私が3Dプリンターで出力された義肢に携わり始めた初期は、基本的な機材を使って自作を行っていました。2011年11月に、リチャード・ヴァン・アズさんという男性から連絡を受けました。彼は南アフリカ出身で、指の切断患者です。同じく南アフリカに住む、生まれつき指が欠損していた男の子のために、彼と私で義手を製作しました。アーティストであり特殊効果用の小道具デザイナーの私と、指の切断患者で大工のリチャードさんとの共同作品でした。当時は、たった1人の子供のための地味なプロジェクトでした。しかし、リオンくんが成長するのに合わせ義手を大きくする必要がありました。

そこで、その頃ちょうど3Dプリンターについて知った私は3Dデザインや3Dプリンターについて独学で学びました。MakerBotに問い合わせると、実験用に2台の3Dプリンターを提供してくれました。それを用いて、私たちは部分的な義手の初代モデルを完成させました。

基本的な機能はついていましたが、まだまだ改善すべき点がたくさんありました。私たちはプロのエンジニアやデザイナーではありませんでした。しかし、リオンくんが義手の使用を習得しようと非常に努力していたので、私たちも頑張ろうと思えました。

デザインについては、Thingiverseというウェブサイトにパブリックドメインライセンスの下で公開することにしました。つまり、誰でも、どんな目的のためでも使用することができます。そして幸い、試しに使ってみる人が現れました。その中に、特に興味深いアイディアを思いついた人がいました。ニューヨークにあるロチェスター工科大学のジョン・シュールさんです。人々が集まってデザインや製造方法について話し合ったり、3Dプリンターを持っている人と持っていない人をつないだりすe-NABLEというプラットフォームを作りました。こうして対話の場ができたことをきっかけに、enablingthefuture.orgというコミュニティウェブサイトが生まれました。コミュニティの設立から数年後には、ボランティア、デバイス使用者、デザイナー、製作者、そして教育者も含め様々な分野の人々を網羅する、分散型の草の根コミュニティが出来上がっていました。

2013年1月の初代デザインは150ドルの費用がかかり、出力後の組み立てに8時間かかりましたが、オープンソースで開発を進めたことで、今では材料費40ドル、組み立てに3時間というデザインも誕生しました。45カ国以上のユーザーがいます。

しかし制約もありました。能動義手なので、つかむという1つの機能しか持っていなかったのです。そのため個人的には、exiiiのように3Dプリンティングを活用して一般の能動義手よりも発達したものを作っている団体を知って本当にわくわくしました。教育面では、ワシントン大学ボセル校で教鞭をとっています。こうした義手について学んでいる学生もいます。動画の右側に写っているのがキーラン・グジャラ、左側がアレックス・リーで、2人は私が教えている学生です。Myo-Bandという市販のデバイスを使い、多機能義手を作って試しに動かしています。右、左、つかむ、はなすという4つの動きをプログラミングしようとしています。しかしまだ能動義手をもとにして、他の機能を追加しようとしているという段階で、さらなる改良が必要な事例です。もうすぐデモンストレーションをしようとしています。ご覧のとおり、アレックスがある方向に筋肉を収縮させると、Bluetoothによって合図が送られます。キーランがコードを書くのを完了次第、近日中に公開しますので、彼らが使っているコードを使って皆さんも色々実験できるようになります。

自己紹介(近藤玄大氏)

SXSW2015で世界的話題となった3Dプリント義手handiiiの次のモデル"HACKberry"に進化し、オープンソースになってSXSW2016に戻ってきた

exiii Tradeshow image

東京から参りました、近藤玄大です。exiiiという3人組のチームで、ソフトウェアエンジニアの仕事をしています。写真左側に写っているのがハードウェアデザイナーの小西哲哉、右側がメカニカルエンジニアの山浦博志です。私たちは約3年前、2013年に活動開始しました。

当時はソニーやパナソニックという大企業で働いていましたが、2014年にはexiiiを起業しました。

私たちが行っているのは、3Dプリンターで出力できる義手の製作です。お話しするよりお見せした方が分かりやすいと思うので、少しお見せします。このセンサーが指を操作します。圧力センサーなので、私は指先を使って押していますが、切断患者の方は腕を使って押すことができます。手を失った方でも、腕には筋肉があるので、その周りに巻いてセンサーを押すことができます。そこまで器用ではありませんが、小さな物体を持ち上げたり、ペットボトルをつかんだりといった簡単なことはできます。

偶然にも、このプロジェクトを立ち上げたのは、オーウェンさんがロボハンドのプロジェクトを開始したのとほぼ同時期だったのです。昨年の11月までは直接の知り合いではありませんでした。
しかし私たちがどちらもオープンソースで、3Dプリンターによる出力の製品を作ったのは驚くべきことです。これによって従来の義手に比べて大幅にコスト削減することができ、削減額は15,000ドルほどとも考えられます。

この50年ほどであまり革新が見られなかった分野ですから、心躍る瞬間ですね。

このセッション終了後にデモンストレーションを行いますので、お時間があればお越しください。
昨年度はトレードショーにも出展しました。驚くことに、今年のトレードショーに広告にも使われました。後でコンベンションセンターに出向かれることがあれば、ぜひデジタルサイネージに掲載されたこの写真をご覧ください。

握手しているこの男性は森川さんという方で、私の友人です。残念ながら2年前に事故で右手を失いました。日本の義手の普及率は非常に低いです。高価なので、手を失った人の2%しか購入できません。しかし、材料費が500ドルしかかからない私たちの手を使うことで、少なくとも握手できるようになります。また周囲の人も、このデザインなら肌色の義手を見た時より前向きな気持ちで話しかけられるのではないでしょうか。

もう1人例を挙げます。この女性は生まれつき右手がありませんでした。その状態に慣れているので、家事など全てこなすことができます。一人暮らしもしたことがありますし、お仕事もしています。ただ1つできないことが、ジェスチャーをすることです。
彼女は歌手で、もちろん生まれつきの左手でマイクを持つことができます。しかし手を振ったり、観客にしぐさしたりできないので、ライブ公演をできず、音楽的表現の幅を制限されていると感じていました。そこで、昨年6月に私たちはHACKberryというモデルの義手を提供し、彼女の夢をかなえました。生まれて初めて、ジェスチャー付きでライブ公演をすることができたのです。

exiiiの目標は、デザインと価格面ともに義手を手軽な選択肢にすることです。手がないことを個性の1つにしたいのです。障害として捉えられがちなものを別の視点から捉えなおし、前向きに自己表現できる個性にしたいと考えています。
私たちはようやく昨年5月に、データをオンラインに公開してオープンソースを開始しました。必要なマテリアルの一覧も公開しています。私たちはマテリアルの一括販売は行っていませんが、コロラド州のメーカーズコミュニティがHACKberry製作に必要なマテリアルのセットを販売し始めました。また、写真には青い手が写っていますが、その後ろに大人の手が写っているのが分かりますでしょうか。これは子供サイズのHACKberryで、私たちが開発したわけではありません。ある男性が近所に住む左手がない子供のために製作したのです。

また、木でできているように見えるものは、台湾人のエンジニアがHACKberryをレーザーカッターで製作したものです。右手に写っているのは、バーチャルリアリティーです。こうした製品の3Dデータと、コンピューターグラフィックスは異なりますが、あるゲームデザイナーがコンピューターグラフィックス用のデザインデータを公開しました。バーチャルリアリティー関連では、今後も発展があるのではないかと思います。

こうした出来事がたった1年間で起こったのです。オープンソースは、広報という点でも非常に役立ちました。私たちは宣伝費をほとんどかけたことがありません。しかし、ある新聞記者から取材を受けて、どうすれば義手を自分で作れるか聞かれました。彼自身も切断患者で、工学を専攻していたわけではなく、片手だけではんだ付けなどの作業を行うのは生まれて初めてでした。それにも関わらず、たったの4日間で義手を製作しました。その記事が全国紙に載ったので、本当に嬉しかったです。

また、地域での集会を開催することも重要だと考えています。東京では、NPOのMission ARM Japanのメンバーとして毎月集会を行っています。左上の写真は、手を失った人々がレンガを持ち上げる体験を楽しんでいる様子です。こうした親しみやすい雰囲気のなかでは、正直なフィードバックが得られます。

その他にも、医療業界の仕事の中でも、義肢装具士やセラピストといったエンジニア以外の人々向けのワークショップも開催しました。最近はこうした活動をしておりました。

質問01:子ども向けの義手について

子供用の義手について、成長過程に合わせて新しい義手を作っていると仰っていましたが、同じ筋電部品を再利用して外側部分だけを新調していく方法はありますか?

(近藤氏)
子供は成長が速いので、大人用を作るより大変です。また技術的観点から見ると、モーターやバッテリーなどの全ての部品を小さな本体に収めるのも大変です。そのため、外国では分かりませんが日本では子供は義手を使うことはできませんでした。毎年2万ドルかかってしまうからです。
しかし、私たちの考えでは、子供用は大人用ほど耐久性に優れている必要がありません。壊れやすくても、大きさに合わせて作り替えていけば良いのです。
また最近では日本の病院で、義手バンクのようなものがあります。1人の子供に義手を貸し出し、その子が大きくなったら大きい義手に交換して、小さい義手は小さな子供に受け継ぐというシステムです。

(イヴァン氏)
子供が成長過程で能動義手を使うのには他の意味もあります。まだ研究の途中段階ですが、ネブラスカ州クレイトン大学では、子供が成長過程で機械装置を使うことがどのように筋肉に影響を与えるか、そしてセンサーに送る信号の質が向上するかどうかを検証する研究が行われています。
最初の結果によれば、子供のうちに機械装置を使うことで、大人になったときにより正確な信号を送れるようになるといいます。数年後にこの研究がどのような結論を出すか見るのが楽しみですね。
こうした意味で、子供の成長過程に製作が容易な装置を使うことで、大人になった時に義手を使うための訓練ができるのです。

質問02:オープンソースの活用について

近藤さんのプロジェクトでは、どのようにオープンソースを活用しましたか?他者がデザインに貢献することの恩恵は受けましたか、それとも3人のデザインのままでしたか?

(近藤氏)
最近は多くの人が貢献してくださっています。今でも私たちの元々のデザインが基盤となっていますが、お見せしたように、子供用のバージョンなども最近では出ています。次第に外部からの貢献が増えていると思います。

質問03:義手の質感について

義手の仕上がりがとても滑らかですが、どのように実現しているのですか?

(近藤氏)
良い質問です。仕上がりは使うプリンターによって異なります。例えばこれはアメリカ食品医薬品局(FDA)承認の産業用3Dプリンターを使って作りました。素材はABS樹脂かと思います。これでも機能します。
音楽パフォーマンスに使ったこのモデルは、白いマテリアルを使って出力して初めに黒く着色しました。その後、3Dプリント用のステッカーを貼り付けました。これは様々な色や質感のものがあります。
例えば炭素繊維に見えるものもありますが、もちろん本物の炭素繊維ではありません。しかしユーザーによる評価は非常に高いです。スマートフォンのケースを変えるように気軽にカスタマイズできるからです。ステッカーには感謝です。 

議論01:オープンソースの電動義手HACKberryの可能性と課題

「ビジネス」、「品質」、「法規制」、「技術へのアクセシビリティ」の4つの課題

(近藤氏)
まず、このプロジェクトは第一に善意で行っていますが、営利目的の会社でもあります。これまではグーグル社やイギリス掃除機メーカーのダイソン社などに頂いた資金援助によって、なんとかやってくることができました。また、オートデスク社は高性能のソフトウェアを無償に近い形で使わせてくださっています。

しかしこのような経営は持続可能なモデルではありません。現在の最大の課題は、どのようにこのプロジェクトから利益を得るか、どのようにオープンソースを事業で活用していくかということです。

さらに2つ課題があります。
1つは技術面での品質です。生でパフォーマンスをお見せしたり、トレードショーでデモを行ったりすることはできても、まだ日常生活に耐えうるものではありません。防水ではないし、落としたら恐らく壊れるでしょう。そのため品質は課題です。

もう1つの課題は法規制です。この製品をアメリカで販売したければ、FDAのクラス2の承認を受ける必要があり、お金も時間も多くかかります。デジタル技術と政府の法規制の狭間で最適な立ち位置を見つけるのは課題です。

(イヴァン氏)
耐久性は大きな課題です。ただ私の場合、義肢のユーザーのほとんどが子供ですので、約半年ごとに大きさが合わなくなってしまいます。そのため、製品の寿命がそこまで長くなくても大丈夫なのです。そのように解決してきました。
2つ目の課題は技術のアクセシビリティです。義手は簡単なつくりなので、多くの人がその製作方法を学べると思います。理想としては、ユーザー自身やその家族が各自で義手を製作し、メンテナンスするのが最も持続可能な解決策だと思います。しかしそのためには3Dプリンターを利用可能であることが不可欠です。日本や欧米では一般的になってきているかもしれませんが、世界には3Dプリンターの利用が非常に困難なところもあります。3つ目の課題が法規制です。今のところ、アメリカでは3D出力された義手について特に問題は起きていません。外付けのデバイスで、現時点では全て無料で贈与されているので厳密には市販前にあたるため、FDAの管轄下に入らないのです。しかし、FDAにとってこうした製品のデジタルファブリケーションは前例のないことですので、これから検討し始める可能性はあります。ただし、先ほど述べたように人々が自らデバイスを製作する場合、FDAは「自分の道具を作るな」とは言えません。「自分で金づちを製作してはいけません」と言えないのと同じです。そのため、自ら製作することは解決策の1つかもしれません。 

「技術へのアクセシビリティ」について

(近藤氏)
私は日本市場しか分かりませんが、国内でも大きく状況が異なります。例えば東京は人口が過密なため、本人がエンジニアでなくても工学専門の友人が1人くらいはいて、その人の助けを借りることも可能かと思います。一方で、北海道では切断患者は病院に行くために何時間も運転しなくてはならないと聞きます。あまりインターネットも使用されていないようです。インフラによって状況が大きく異なることが分かります。

(イヴァン氏)
コミュニティでは、3Dプリンターと人々を結びつける興味深い動きが起こっています。例えば、図書館で3Dプリンターを入手し、一般の利用者が使えるようにする試みがなされています。素晴らしい具体例があります。どこの場所だったか失念しましたが、12歳くらいの男の子が地元の図書館でプリンターの利用を申し込みました。そしてファイルをダウンロードし、出力し、自分のデバイスを製作したのです。また、コミュニティのボランティアから聞いたのですが、ボーイスカウトやガールスカウトのクラブで3Dプリンターを入手しているところもあるそうです。これも、一般の人々が利用するための良い手段になりそうです。このようにコミュニティでは素晴らしい動きがあります。最大の課題の1つは、3Dプリンターを維持するための部品すら手に入りにくい場所、例えばウガンダでどのように3Dプリンターを利用できるようにするかということです。

(近藤氏)
これは20歳前後の友人のフェイスブックページです。彼には右手がありませんが、新聞記者が自ら義手を製作したという先ほど触れた新聞記事に触発され、義手を作り始めました。3Dプリンター製造者に連絡を取り、プリンターを無料で入手することができました。出力してみて、色がとても気に入ったそうです。今では自分で義手を製作しています。こうしたエピソードが広まると、多くの人が追随するでしょう。そして発展していきます。そのため、地元のコミュニティはとても重要だと思います。 

聴衆:消費者が出力業者を使うのは可能でしょうか?Shapewaysのような業者です。採寸したものを遠隔地で出力して、ユーザーに送るといったことはできるのでしょうか?

(イヴァン氏)
もちろんです。コミュニティのウェブページには、遠隔地で採寸する方法が記載されています。私の場合、この硬貨を使って世界中で採寸できるようにしています。南アフリカの2ランド硬貨です前の話に出てきたリオンくんが机に手を置き、硬貨を敷き詰めた状態で上から写真を撮りました。硬貨の大きさは分かっているので、ソフトウェアを用いてデジタルに測定できます。Shapewaysのような出力サービスは素晴らしいので、今後価格が下がることを期待します。
現在では、Shapewaysを利用して10歳ほどの子供用の義手を製作するのには500ドルほどかかります。それでも、義手を保険で入手することができず自腹で購入する場合、類似製品は2000~5000ドルもします。そのため、Shapewauysのようなサービスを利用するのも可能でしょう。e-NABLEのコミュニティとコミュニティ財団ではボランティアがその役割を果たせるような仕組みを模索しています。今日までに、デバイスを必要とする人と製作者のマッチングを通して2000個以上のデバイスを製作してきました。しかし、この規模のコミュニティで世界中のニーズを満たすことは到底できません。

聴衆:10歳用の義手のデザインをアップロードしたことがあますが、ABSを使っているサービスからは38ドルの見積もりをもらいました。

(イヴァン氏) Oh cool!!!

聴衆:Shapewaysは高価ですが、他にも独自の事業を展開している人もいます。ABS製品は6か月もつくらいの耐久性はあるでしょう。 Makexyzという会社もこうしたサービスを展開しています。

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(イヴァン氏)
他のサービスを使うときに考慮しなくてはならないのは、製造過程が確立されていないということです。義手を出力したことのない人だと、3Dプリンターを最適な設定にせずに出力してしまうことがあります。多くの義手を見てきましたが、例えばトレランスの設定が不適切だと部品がきれいに接続しない可能性があります。行き当たりばったりになってしまうわけです。しかし、部品を送ってもらうのに50ドルしかかからないなら、上手くいかない場合は再挑戦することもできますね。

(近藤氏)
義手と義腕を別々に考えることも必要です。手ならば、SサイズとLサイズを作ればほとんどの人々に対応できます。しかし腕は、人によって形状や大きさが全く異なります。3Dスキャナーには期待していますが、高品質なデバイスでも、義肢装具士が調整する必要があります。人間の手には骨や筋肉や神経があります。各患者に合わせて手動で調整する必要があります。こうした義肢装具士は今後も必要だと思います。私たちのコミュニティで試みているのは、デジタルファブリケーション技術について義肢装具士を教育することです。今では、義肢装具士のなかで3D技術と従来の技術を組み合わせようとする動きが起こっています。その方法が確立されたら、出力はShapewaysに任せられるようになります。


「品質と法規制」について

(近藤氏)
これは直接の返答になっていないかもしれませんが、義手は義足よりも困難が少ないと思います。義足に関しては、使用中の転倒などの危険がすぐに想像できます。政府も危険だと感じやすいと思います。しかし義手ではそのようなリスクはありません。危険性としては、義手の装着者が車を運転していて、車をコントロールできなくなることでしょうか。義手に関しては直接的な危険性を想定しにくいため、義足に比べれば容易に法規制をくぐりぬけることができると思います。

(イヴァン氏)
アメリカの法制度に関しては、義肢装具士の還付制度が変われば改善されると思います。現行では、義肢装具士は顧客に提供するデバイスの価格に合わせて保険会社から還付金を支払われています。しかし義肢装具士がもしデバイスを自ら組み立てた場合、保険会社がその費用を還付する制度がないのです。これは今後の課題でしょう。実際、多くの義肢装具士が3Dプリンターなどの技術に興味を持っていて、自分でデバイスを製作してみたいと考えていますが、それに対して報酬を得られるシステムがありません。この問題が解決されれば、NPOだけでなく一般の病院でもデバイスを自作する動きが広がるでしょう。

(近藤氏)
医療面と製造面という2つの側面を検討する必要があります。保険会社やFDAは医療面の話です。品質などに関する確実な根拠を提示して、承認を得る必要がありますが、きっとできるでしょう。一方で、製造面についても考えなくてはなりません。製造業者として、私たちには製造物責任(PL)があります。テレビのような製品については、国際的にも国内でも一定の規格が既に存在しています。しかしこのような新しい製品については、私たち自身が規格を設定し、承認を受ける必要がありますから、誰もPLの規格が分からないのです。この課題についてもエンジニアと話し合いをしています。 

モデレーター小林氏:製造に関しては、射出成形のような従来の手法を用いて、より耐久性の高い部品を作ることもできます。

(イヴァン氏)
射出成形は、多くの初期投資を要する手法です。そのため、3Dプリンターを製造過程に取り入れることで、小さな部品を作る場合は特にコスト削減することができます。射出成形は、同じものを100,000個など大量に作る場合にしかメリットがありません。また、この義手を見てみるとたくさんの異なる部品があることがわかります。もしこれを射出成形で作るなら、プラスチックを射出する金型を何種類も作る必要がありますから、コストが非常に高くなります。しかし、3Dプリンティングで作った型を用いて金属鋳造することはできます。私がつけている指輪はピューター製です。射出成形には適さない金属ですが、比較的単純な技術を用いて、3Dプリンティングで作った型から金属鋳造したものです。同様のことをアルミニウムを使って行えば、この義手のようなものも作れるでしょう。50,00から10,000ドル分の機材があれば、毎時150部品くらいのペースで製造できます。初期投資を大幅に抑えつつ、耐久性の高い部品を自分で作ることのできる方法です。 

モデレーター小林氏:
家に材料さえそろっていれば、大きな変化を起こすことができるのですね。21世紀ですから、インターネットや3Dプリンターを使った画期的なアイディアを実現できます。また、物事のあり方を再定義できます。最後にビジネス面の課題について検討しましょう。お二人が行っているようなプロジェクトをいかにして拡大、あるは少なくとも持続していくことができるでしょうか?

(近藤氏)
オープンソースについては、現在SAのCreative Commonsライセンスのもとで公開しています。ですから、私たちのデータを使って作った製品については、当社にクレジットを表示するとともに一般公開する必要があります。現段階ではこのライセンスしかありませんが、近日中にデュアルライセンスを取得しようとしています。1つは一般的なライセンスですが、もう一つは商業利用のライセンスです。最近、様々な国の方から、地元で当社の義手を販売したいという問い合わせを頂いています。こうした場合、誰かが製品から利益を得つつも、私たちもこのプロジェクトを継続できるような方法を取りたいと考えています。

(イヴァン氏)
製造やデザインが非中央集権化することの利点は、製品によって流通させるためのアプローチを変えることができる点だと思います。高度なロボット義手のようなものなら、自前で製作できる人はほとんどいないでしょう。そうした製品を市場で販売する場合は、類似品の10%の価格で提供できれば、高度な技術を利用したい人たちにとって非常に喜ばしいことです。能動義肢については、他の方法をとることができると思います。能動義手に興味がある人にとって最も持続可能なモデルとは、デバイスユーザー自身が自分専属の機械工になることです。そうした素晴らしい事例がコミュニティでは見られます。ルーク・デニソンさんという少年がいますが、彼は父親と一緒に左手の義手を製作しています。今では自宅に3Dプリンターがあるので、ルークは新しいことに挑戦しています。たとえば親指を2つほしいと思ったので、親指が2本ある義手を作りました。(会場笑い)かっこいいですよね。2本目の親指によって、筒状のものをつかんだ時の安定感が増したそうです。また、手とは何かという概念から完全に離れた手も作っています。もう片方の手よりはるかに大きな、3本の爪が生えた手を作ったのです。大きなものをつかむことができるそうです。ルークは成長するなかで、どんなタスクのためにも適した手を作ることができると考えるでしょう。義肢を欲している切断患者がこのような段階まで到達できれば、多くのデバイスを自前で作ることができます。それが能動義手については最も持続可能で低価格なモデルだと思います。

(近藤氏)
今まで考え付かなかったようなことを実現できます。例えばiPhoneを内蔵することもできるでしょう。1つ考えているのは、非接触ICタグ(suica)を内蔵することです。手を失った人がゲートを通るのは非常に大変で、特に雨の日には傘を持っているのでさらに大変です。しかしここに非接触ICタグがあれば、手をかさずだけで通ることができます。

モデレーター小林氏:本当に人体を再定義していると実感します。義肢デバイスの法規制はマイナスをゼロにすることを目指しています。しかし私たちはゼロからプラスにすることを考えていますから、これらのデバイスの法規制を再定義することができます。

(近藤氏)
私たちはマイナスをゼロではなくプラスにすることを考えています。そしていつかはそれを「普通」にすることが目標です。 

聴衆:義肢装具士と3Dプリンティングのコミュニティの間で協働している事例があるのでしょうか?特に義肢装具士が最先端の3Dプリンティングツールを活用しているのか、この分野で義肢装具士の強みを生かしていく動きがあるのか伺いたいです。

(近藤氏)
現段階では、残念ながらありません。日本義肢装具士協会は非常に保守的です。私たちはボトムアップ的な草の根運動をしています。しかし、私たちのコミュニティにはユーザーもいます。ですから、一定の品質に達してユーザーの声が大きくなれば、協会が私たちを見る視線も変わってくるかもしれません

(イヴァン氏)
アメリカでもあまりそうした動きはありませんが、いくつか事例はあります。ワシントン州の義肢装具士で3Dプリンティングを試している人を知っていますし、ジョンズ・ホプキンス大学のアルバート・チー博士とそのチーム、e-NABLEコミュニティ財団のジェフ・エレンストーンさんもいます。このように、試みている義肢装具士や団体がありますし、興味を持っている人は国中にいます。 

聴衆:子供が義手を使用する場合、成長の過程で適切なタイミングで義手の大きさを交換していかないと、成長が阻まれるといったことはあるでしょうか?

(イヴァン氏)
理論上は、義手による締め付けが非常にきつければその可能性はあります。しかし、だからこそ家族との協力が重要です。常にデバイスを見守ってもらう必要があります。また、デバイスには締め付けを和らげるような詰め物をしてあることが多いです。ほとんどの義肢は日常的なタスクをこなすために作られていて、水筒より重いものを持ち上げるのには適していません。そのため、通常は腕が完全に覆われているわけではなく、体をきつく締め付けることもありません。

(近藤氏)
医師の方から以前伺った話によると、幼いうちに義手を使い始めて、慣れておくことが重要だそうです。義手は着け心地が良いものではありません。常に着用しなくてはならず、重く感じられます。10代に入ってから使うと、子供は棚に放置して使わなくなってしまいます。ですので、早いうちから慣れておいて、義肢が体の一部になるようにするのが良いそうです。 

聴衆:この分野の初心者なので、初歩的な質問かもしれませんがご了承ください。こうした義手を装着するには誰かの助けが必要なのか、それとも1人で簡単にできるのか伺いたいです。ユーザーは完全に1人で使えるのか、それとも子供でも大人でも助けが必要なのでしょうか?

(イヴァン氏)
能動義手については、手首のストラップで装着します。そのため、片手だけの指を失った人ならば、簡単に自分で装着できます。肘下のデバイスについても、面ファスナーで止めるだけなので、ユーザー自身で着脱できます。

(近藤)
ここにセンサーがあるので、気を付けて扱う必要があります。装着には両手を必要とするので、片手しかないユーザーには困難です。そのため、当社のメカニカルエンジニアに片手で可能にできるよう改善を求めています。非常に重要な点です。 

モデレーター小林氏:時間が迫っていますので、最後に一言ずつお願いします。

(近藤氏)
今日はいくつかの課題についてお話ししました。私のオープンソースコミュニティにぜひ参加していただけると嬉しいです。地元東京でのコミュニティにご参加いただくのは難しいでしょうが、もしいらっしゃれば喜んでご案内します。オープンソースは国際的な場ですので、エンジニアの方もそうでない方も、興味を持っていただければウェブページからご参加いただけると幸いです。

(イヴァン氏)
私は前向きに考えています。3Dプリンター製のカスタマイズ可能な義肢は、3年前に製作が始まったばかりの非常に新しい分野です。この先どのように展開していくか楽しみです。

(モデレーター小林氏)
前向きに捉えていらっしゃるということですね。あちらの部屋には多くの3Dプリンターが置いてあります。5年ほど前なら、物珍しくて「すごい、3Dプリンターだ!」と思ったかもしれません。しかし今ではそれは普通になり、3Dプリンターを目にしても何とも思わないでしょう。色々と変わったのです。本当に21世紀に生きているのだと実感します。インターネットや3Dプリンターなどの技術があり、ハードウェアもソフトウェアもそろっています。自分たちのアイディアを発信し、実現していくことで前進できます。私も明るい未来を信じています。


#open3dbody ミートアップ

meetup image

その日の夜に、オースティン某所でホットドッグミートアップを行いました。セッションの中では終わらなかった深い議論が行われ、国を超えたビジョンを共有しあう者同士の濃いコミュニティが生まれるのがSXSWの醍醐味の一つです。


オーガナイズ後記 (未来予報)

open3dbody group

宮川は5年目、曽我は4年目となるSXSWでしたが、毎年新たな試みに少しずつ挑戦しています。

2016年3月の大きな挑戦は、SXSWセッション公募システムPanelPickerに応募し日本のプレーヤーのビジョンを世界にアピールすることでした。

私たちの尊敬する小林先生にモデレーションいただき、いまだ答えのない領域を進むプレーヤーである近藤さん、イヴァンさんが考える「未来」と、そこに到達するまでの「課題」を、濃いかたちで世界に発信できたのはとても誇りです。

インタラクティブ部門のヒュー・フォレスト氏がこんなことを言っていました。
「サウスバイはスモールコミュニティができる場所。そしてそれが数年かけてビッグムーブメントに発展する。」

場所はSXCreateというメイン会場の中でも遠い場所で、こじんまりとしたステージではありましたが、スモールコミュニティの萌芽は確実にあったと思っています。

小林先生・近藤さん・イヴァンさん、オーガナイザーとして至らぬ点が多くあったかもしれませんが、ご一緒できてとても光栄でした。

本当にありがとうございました!

またAyaさん、Taizoさん、脇田さんをはじめ、オースティンにお住まいの皆さんも本当にお世話になりました。オースティン大好きです。

最後にセッションにお集まりいただいた皆さん、そしてこの長い記事を読んでくれた皆さん。本当にありがとうございます!

小林先生・近藤さん・イヴァンさんの今後のご活躍と、オープンソースハードウェアの可能性にご注目ください。