SXSWのセッションを楽しむコツは、自分の専門領域”外”を横断的に見てみる事です。トラック(カテゴリー)をまたいで、共通するテーマを自分なりに見つけてみると、未来の兆しが見えてきます。SXSW2019特集記事の後半は、未来予報のインターン齋藤雄太さんの視点から書いた全6記事をお送りします。

はじめに

前回の「Self-Sovereignty & Independence」の回で、未来を予測する法則の一つとして「Cognifying」(コグニファイング)を取り上げさせていただきましたが、これは、今後人工知能がますます進化し、自分で学ぶAI、AI同士で学ぶAIへと進化を加速させ、ルールを教え込む人間が不要な自律したAIやロボットの可能性を示唆していました。

これを聞いた時に私には大きな疑問が湧いてきます。これらのテクノロジーの進化はどこへ向かっているのでしょうか。まるで機械は自らのために自己生成をし進化をしていき、そこに人間は関係ないような気がします。本来テクノロジーとは人間が使うための”道具”であり、人間の可能性やパフォーマンスを最大限にするために進化してきたはずでした。しかしその弊害については絶え間なく議論がされており、それらに頼りすぎることは実際人間をダメにし、我々のウェルビーイング(身体的、精神的、社会的に良好な状態)を下げるのではないかと危惧されています。
例えば、ネット社会の消費者動向として、2015年発表のマイクロソフトの調査によると、2000年から10数年で人の平均アテンション・スパンは12秒から8秒に縮まったとされています。これは金魚の9秒よりも短く、水槽の中で落ち着きなく泳ぎ回る金魚より、人間はひどいことになります。世代を問わずに、常にスマホで情報やニュースをチェックしたり、SNSを使用している新たなライフスタイルは、我々の注意力や集中力を知らず知らずに奪ってきました。
こうした変化は、「マルチタスキング力」などの新たなスキルを重宝する流れを生みましたが、マルチタスクの悪影響は多く発見されており、集中力や思考力の低下、情緒不安定性の増加などの弊害が発見されています。また、集中して作業に取り組んでいる最中に一度メールやSNSのメッセージなどの通知に注意が持っていかれた場合、元通りの集中力に戻るためには平均して約20分かかると言われます。これだけ情報過多となった時代においては我々の注意や集中力をどこに意識的に向けるかということが以前よりも大事になっているのかもしれません。

さらに、ソーシャルメディアがいかに我々のストレスや孤独感を高めているかについての研究も報告されています。私たちは、人との接点が減ると、他者に共感しづらくなり、ストレスが増え不信感が高まり、攻撃性も強まると言われています。ソーシャルメディアを通じて個人的な情報を公開して、”いいね”などの反応を得ると私たちの脳からはドーパミン(快感や多幸感を得る脳内ホルモン)が放出され、満足感を得ることができます。この満足感を得るために、私たちはソーシャルメディア上で「過度の共有」を行い、その結果多くの人々は「理想の自分」を自ら作り出し、その裏の「本当の自分」は他者との直接的な接点を失っています。このような行動は孤独で不健全な状態を生み出しますが、脳はドーパミンの放出を”満足感”と勘違いしてしまいこのサイクルから抜け出すことが難しくなってしまいます。

このようなSNSの”ダークサイド”や、その行き着く先のディストピア的社会の到来を風刺的に描き出した映画「ザ・サークル」ではエマ・ワトソンが演じる主人公がSNSの超巨大企業に成長した「サークル社」で働き始めた頃、会社の新プロジェクト「シー・チェンジ」の実験役に抜擢され、24時間シー・チェンジ・カメラを装着し、身の回りの出来事を24時間シェアするという、社員として初めて自分を「透明化」する企画を遂行し始めました。これをきっかけに彼女は多数のフォロワーを獲得し、インフルエンサーとなりましたが、その反面、両親や親友たちとは疎遠になってしまい、思わぬ副作用に悩み傷つきつつも、活躍が認められ社内ステップアップに励んでいました。ここからはネタバレとなってしまうので記述を控えますが、この映画で描写されているSNS企業は実際に存在する企業と非常に似たように描写がされており、社内ではまさにSNS上での評価が全てといった社風が描かれており(これは実際とは違うかとは思いますが)、主人公が「理想の自分」を作り出すことで「本当の自分」をすり減らしてしまい、家族や友人などの実世界での人間関係も犠牲にしてしまうという姿は、もしかしたら私たちの身の回りの人たちの間でも、実際は感じていても周りの人に相談することができていないかもしれない身近な問題なのかもしれません。

こうした「評価経済社会」や「相互監視社会」という言葉が登場して久しい現在ですが、実際に中国では、日頃の行動やSNSでの発言、犯した不正行為などを総合して個々人にランク付けし、スコアの高い者を様々な場面で優遇したり、顔認証機能がついた「ハイテクメガネ」を警察官が身に付け、データベースに登録された要注意人物をたちまち身に付けることを可能にする試みや、一部の地域ではドローンによる広範囲な監視を行っており、鳩を模した鳥型ドローンも完成間近という発表があり、政府に常に監視されてプライバシーもなく、「良い市民」と見なされるようポイント獲得に躍起となる……そんなディストピア社会が現実のものとなりつつあります。

このようにSNSやテクノロジーにはそれを活用することで得られる新たな可能性やメリットがある一方で、社会全体としてそれらの技術をどのようにして生活に浸透させていくかということは我々の将来の生活に密接に関わるとても重要な課題だと言えます。以下の章では、SXSW2019の中で、こうしたSNSやテクノロジーと我々のウェルビーイングに関わる課題を議論していくセッションを見ていき、我々の精神性やウェルビーイングそのものを見直すことができればと思います。



SXSW2019セッションのご紹介


まず、Future Workplace部門の「The Future of Wellbeing with Ubiquitous Sensing」では、センサー技術を用いていかに人々の生活や働く環境を改善し、人々を幸せにすることができるかについて議論をします。ユビキタス・センサーが人々の職場・家庭・身体活動などあらゆる場面で測定する可能性を秘めているが、それらの技術が個人、そして社会全体の利益にきちんとと使われるための議論が必要だとされています。このパネルでは、食欲を抑制するジュエリーや、表情を解読することができるカメラシグナルなど、捉えがたいレベルで人々の行動や知覚に影響を与えるための最新の研究を紹介し、センサー技術が職場におけるウェルビーイングをいかに改善する可能性があるかについて議論をします。
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次に、Design部門の「Detox Your Product: Design for Digital Wellbeing」では、Google, Microsoft, Appleなどが人々がSNSなどから得ているドーパミンのループから抜け出すため使いすぎを抑止するための処方箋や対策を数多く発表している中、オフラインの時間を積極的に取るためのナッジアプローチなどは、消費者のためだけでなく、企業の長期的なブランドの健全性にも良い影響があると考えられています。ただこれだけではアプリに中毒性をもたらすようなデザインを変えるには足りません。消費者のことを本当の意味で考えたデジタルウェルビーイングとは何かについてをオンライン/オフラインでの両方の側面から議論をしていきます。
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さらに、デジタルウェルビーイングからは少し離れて、Health & MedTech部門の「Advancing Mental Wellbeing in Communities of Color」では、 我々がメンタルヘルスについて考える時(特に多人種のコミュニティにおいて)、私たちが抱えるネガティブなステレオタイプを指摘し、トップの非営利団体のリーダーたちがどのようなクリエイティブでイノベーティブな方法や戦略を持ってこの差別・偏見を解消するべく取り組んでいるか、そして多人種コミュニティにおける教育や意識の欠如について議論をします。具体的な例としては、世代間のトラウマからいかに回復を図るべきか、その人の文化的背景に適したアプローチや介入による精神的健康状態の改善の方法論について議論をします。こうした課題は多民族国家であるアメリカならではの議題のようにも感じますが、これから日本が外国人労働者をより多く受け入れていくことになれば日本でも必要となる視点がこうしたセッションから得られるかもしれません。
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最後に、Cannabusiness部門の「Cannabis and Wellness: The Body and Beyond」というセッションでは、 マリファナが身体的・精神的ウェルビーイングへ与える影響の可能性について議論されます。モデレーターのRicky William氏は、彼自身の経験を通じて、マリファナはスピリチュアルな面でも影響を与えてくれ、結果的には彼の人生の目的を見つけることを助けてくれたと語っています。薬用的効用としてのマリファナの使用は近年一気にメインストリームとなった中、ホリスティック医学は身体的健康を維持するためには精神的健康の維持が重要であるとしてマリファナの身体的・精神的効用を真剣に議論しています。
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最後に


「はじめに」ではSNSや最先端テクノロジーの”ダークサイド”やそれらがもたらし得るディストピア的な世界観に触れる話の展開を広げましたが、ヘルスケア・メンタルヘルスとITなどのデジタル技術の融合というのは今最も熱いトピックの一つのように感じます。これらのデジタル技術が我々よりも我々自身のことをよく知るようになっていく社会において、我々はそのメリットとデメリットを認識して、上手に使いこなし、共存していくことが命題であるように感じます。テクノロジーはこれまで自身の進化を人間の手に頼ってきましたが、人間の手に頼らずとも自ら自己増殖する力を獲得しつつある今、それはまるで自らの意志があるかのように、自己増幅をし、進化を加速させていくでしょう。その進化の流れは不可避であり、大きな力と影響力を持っていくでしょうが、我々は、その流れに対抗するのではなく、その進化の固有の性質を見極め、上手に共存していく方向に向かざるを得ないと言えると思います。少し大げさな記述になってしまったかもしれませんが、10年前の人々が10年経ってこれだけ多くの人がスマホを持ち歩き、SNSやスマホゲームなどに没頭しているような世界観は想像もできなかったように、テクノロジーの進化は我々には見えないスピード感を持っており、10年後にどのような社会が広がっているかを想像することの難しさは明白です。だからこそ、今の私たちにできることは、時代の流れに乗りながら、新しいテクノロジーを上手く使いこなし、未来を先読みし、来るべき未来の到来を進めることのように私は考えます。
未来予報株式会社

未来像<HOPE>をつくる専門会社。大手メーカーやスタートアップとともに、リサーチに基づく未来のストーリーやビジュアルを作り出している。日本唯一のSXSW公式コンサルタント。 『10年後の働き方』(インプレス社)を発売。培養肉マイスター、バイオ衣装デザイナー、3Dプリント建築家など、世界で実際に進められているプロジェクトから、50の未来の職業を提示した。Amazon情報・コンピュータ産業カテゴリーでベストセラーを獲得。その活動がBRUTUSやAXIS、WIREDなどメディアに取り上げられている。虎ノ門ヒルズ・六本木ヒルズ、日本財団ソーシャルイノベーションフォーラムなど講演活動多数。 お問い合わせはコチラから Facebookページのフォローもお待ちしています!